プラシーボ効果による向精神薬の不都合な真実


 先日ご紹介した本『「期待」の科学』にはプラシーボ効果について書かれています。プラシーボ効果によって向精神薬による効果測定が正しくできず、本当は製品として発売すべきでない薬が登場してきたようです。

 実際、現在は製薬会社の多くがプラシーボの脅威に直面している。製薬会社のイーライリリーの研究員で患部でもあったウィリアム・ポッターはその事実を最初に認識した一人だ。1990年代後半、彼は臨床試験の結果の再検討をしていた際に一つの事実に気づいた。プラシーボを投与したにもかかわらず、プロザックのようにすでに広く認められた抗うつ薬に近い効果が得られているケースが多かったのである。プロザックより新しい抗うつ薬でさえ、プラシーボと効果がさほど変わらないケースも多かった。業界にとってドル箱となるはずの薬がプラシーボに対して苦戦をしていたわけだ。
<中略>
しかも注目すべきは、プラシーボ効果の予測不可能性だ。同じ薬についての試験であっても、どういう状況でプラシーボ効果が起きるか一定せず、予測が難しい。中でも厄介なのが国や地域による違いで、たとえばプロザックはヨーロッパや南アフリカなどに比べて、アメリカでの方がプラシーボとの効果差がはるかに大きくなる傾向にある。
引用:「期待」の科学 P.288-289 クリス・バーディック 著 夏目 大 訳

 プラシーボ効果とは、人の期待が実際に影響を及ぼす現象です。例えばラムネ菓子を頭痛に効く薬として渡すと、頭痛が解消する場合があります。向精神薬の開発ではプラシーボ効果と薬効を区別する必要があり、その方法に二重盲検法があります。

 二重盲検法とは、実験実施者と被験者に検査内容を知らせずに検査する方法です。前の例で言えば、薬を渡す人も本物の頭痛薬か、ラムネ菓子(偽薬)か判別できない状態です。薬を受け取る被験者も判別できない状態です。実験を計画した人は判別できるようになっているので検査が成立します。こうして人の期待の効果、つまりプラシーボ効果を排除しています。

 では、プラシーボ効果も開発している薬も大差なく効果がある場合はどうでしょうか。プラシーボ効果は表れる場合と現れない場合があります。開発中にプラシーボ効果現れずに、薬の効果が表れた場合は、薬の有効性が認められることになります。しかし、実はプラシーボ効果の方が大きかったという事実が見過ごされる場合があります。そうすると、その薬の必要性はなかったことになります。製薬会社は開発中の薬に期待していて、得たい薬効に注目すると他の可能性を見過ごして評価してしまう場合があります。製薬会社にもプラシーボ効果が働いてしまうのです。

 うつ病治療に必要なのは薬ではなく、長い期間かけて治療できる体制だとまで書かれています。薬で良くなっているのか、プラシーボ効果で良くなっているのか、とても怪しいのです。

 

 ところがプラシーボに意外な効き目が認められたために、状況が変わってしまった。中枢神経系は新薬の墓場かもしれないということがわかってきたからだ。長い時間と巨額の費用を使って新薬を開発しても、効き目がプラシーボとそう変わらないということが多かった。「脳は極めて複雑な期間であり、変化を避け、常に均衡を保とうとする、いわゆる『ホメオスタティック』な機能が多く備わっている。遅かれ早かれ、有効な神経治療薬の開発に確実な方法はないと皆が思うようになるだろう」とポッターはあるインタビューのなかで言っている。
引用:「期待」の科学 P.290 クリス・バーディック 著 夏目 大 訳

 向精神薬の問題点は人体のホメオスタティック(恒常性な)機能とぶつかり合って、不都合が生じる事です。ホメオスタティック機能とは、最適な状態を保つための自己調節のことです。うつ病に効く新しい薬が出来たとしても、ホメオスタティック機能と戦うことになったら、いつかは不安定な状態になり、躁状態になったり、逆にうつ状態になったりと、ホメオスタティック機能が破綻してしまいます。破綻した状態を立て直すために根拠なく別の向精神薬へ変えたりすると収拾がつかなくなります。ホメオスタティック機能を支援するタイプの薬があればいいのですが、向精神薬はたいてい邪魔します。このようなリスクを冒してまで、治そうとする必要があるのか、その点をよく考える必要があります。

 飛行機の自動操縦機能とパイロットが相反する入力をして墜落した事故はいくつか発生しています。人体にも生命を維持する機能があります。ホメオスタティック機能と戦って人生が墜落しないようにご注意願います。

 

 この本の『第10章 プラシーボ効果は「嘘」か』には他にも非常に興味深いことが書いてありますが、割愛します。ぜひ、本を読んでください。


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